2021.Aug
2022.Sep
この記事の内容
- 球速が速い投手と遅い投手を7項目で比較
- 7項目をクリアするためのポイント
- 練習で取り組むべき事
ピッチャーであれば誰もが一度は意識するであろう球速が140km/hです。
年代によっては130km/h台でも十分速いと言えますが、一定のレベル以上になると140km/h以上の球速が必要です。そこで今回は球速が早い投手と遅い投手を比較し、球速を上げる方法についてご紹介していきます。
目次
球速が速い投手と遅い投手の違い
下の画像は球速が速い選手と遅い選手の特徴を比較するものですが、今回は7項目挙げてみました。
この中でも140km/h以上のボールを投げる選手は力の方向を集中させる事が上手く、地面からの反力を強くもらう事が出来ています。また例外的に小柄で細身の選手でも球速が速い選手もいます。オリックスバファローズの山岡泰輔選手はまさにその最たる例ですが、柔軟性が非常に高く、身体操作能力も抜群で力の方向や地面反力の使い方が非常に上手い選手です。
これを踏まえた上で、各項目をクリアするためのポイントを解説していきます。
力の方向
速い球を投げる為にはリリースの瞬間にボールに力を伝える事。力の方向を集中させる事が大切です。どれだけ筋力を向上しても、柔軟性を高めても、最後の瞬間にボールに力が伝わらなければ速い球を投げることは出来ません。その為には体重移動の方向や回転のタイミング、力の使い方などが重要になります。あまり詳しく書くと長くなりすぎるため、下の記事でより詳しく解説していますので是非ご一読ください。
力の方向を揃える習慣を持ちましょう
力の方向を揃える為には日々の練習の中で力の伝わり方をイメージする必要があります。
特に爪先と膝の方向や腕の関節の方向、体重が目標に対してまっすぐ伝わるように移動しているか。などは自分の動画を撮影して確認しておく事が大切です。また投げ終わった後のマウンドの足跡をチェックしても力がどの方向に向いているのかを考えるヒントになります。あまり気にしていない選手もいるので、しっかり確認して足跡の変化と球速の変化の記録をとることをお勧めします。
地面反力
ピッチャーが受ける地面反力は軸足と前足の2つがありますが、前足に関しては後程触れるためここでは軸足の地面反力について説明します。地面反力についての詳しい説明は関連記事でご確認ください。
重心を上げる事が重要
単純に同じ重さのものを地面に向かって落とす時、低い所から落とした場合と高い所から落とした場合はどちらが大きな衝撃を生むかという事です。
答えは当然高い所から落とした場合です。その為には足は高く上げた方が有利なのですが、重要なのがバランスを保ったままで足を高く上げられるかという事です。
右ピッチャーの場合セットポジションから左足を上げますが、この時に腹筋や太腿の前側の筋肉を使って足を引き上げてしまうと、バランスが崩れて体重を真っ直ぐ投げる方向に向かって伝えていく事が難しくなります。下半身のバランスがズレると帳尻を合わせるために上半身も余計な力みが入ってしまったり、リリースの時に体重がしっかりと伝わらないなど球速をロスする原因になります。
バランスを崩さずに足を上げる為には、右足の踵を少し上げ、下ろす反動で左足を上げる事。基準はベルトの線よりも上まで膝があがる事。左足の太腿の裏側の柔軟性が不足すると上がりにくくなります。上の写真のように身体のバランスを崩すことなく膝を十分な高さまで持ってくる事が出来るようになればコントロールも安定しやすくなるでしょう。
柔軟性
球速を上げる上で柔軟性が必要な理由は以下の通りです。
- 可動域が大き方がしなりを大きく使える
- 柔軟性が低い場合思い描いた動きを邪魔してしまう
- ケガの予防になる
可動域を拡げることの重要性は多くの人が理解していると思います。また柔軟性が低い事でステップの幅を広く取る事が出来なかったり、リリース時に上手く力を伝えられなくなるなど動きを邪魔してしまう事もイメージができると思います。
ケガの予防に関してですが、柔軟性が低い事で直接その関節を痛める事につながる場合もありますが、肩や肘へのダメージを蓄積させる原因にもなり得るのが問題です。例えば前足の臀部やハムストリングスの柔軟性が低い場合。骨盤の回転を邪魔してしまい、投球側の半身がスムーズに前に出てこれず、回転不足を腕で補って投げてしまう場合があります。そうなると肩や肘の負担は大きくなります。
ここまで見ると柔軟性は高ければ高いほどいいと感じるかもしれませんが、デメリットも存在します。
それはケガのリスクが高まる事と球速が落ちてしまう事です。矛盾しているようですが、関節の可動域を超えてしまうと筋肉や骨に深刻なダメージを受ける事もあり得ます。また球速を上げる為には自身で生み出した力をボールに伝える必要がありますが、柔軟性が高い場合途中で衝撃をいなしてしまいリリースまでしっかりと伝える事が出来ない可能性もあります。とは言えよほど柔軟性が高くならない限り(もしくは元々の体質で極端に体が柔らかくない限り)メリットの方が大きいので、毎日コツコツと積み重ねて柔軟性を高めましょう。
特に柔軟性を確保しておくべき部位
- 臀部・股関節周り
- 脚の裏側(腿裏・膝裏・ふくらはぎ)
- 胸郭及び脇腹
- 手のひら・前腕
臀部・股関節周りは出したい動きに支障をきたさないレベルが基準。脚の裏側も同様に考えていいと思います。胸郭・脇腹は肩や肘への負担軽減+捻転差を大きくする事で球速アップに繋げる。手のひらや前腕は肘のケガの予防の意識でしっかり行いましょう。
体重
体重が増えれば球速が上がるという話を聞いた事がある方もいるでしょう。これは先述した地面反力が大きくなる事とリリース時の押す力が強くなる事によるものです。但し闇雲に体重が増えればいいというわけではありません。ポイントは自分が操れる重さを超えない事です。要するに筋力以上に体重を増やしてしまうと、感覚的に体が重くなるだけでなく、連動して動くことを邪魔してしまう可能性もあるという事です。そうなると球速が伸びないだけでなく、今まで感じなかった部分の張りや凝り、痛みを感じるようになる事もあります。
目安としては1ヶ月あたり多くても2キロ程度に抑えるようにしましょう。また増やす時はタンパク質の摂取量を意識する事が大切です。体重1キロあたり1.5〜2グラムが目安です。
前足の使い方
穴の深さ=踏み込みの強さ
球速を上げるうえで最も重要と言っても過言ではないのが前足の使い方です。前足が着地した時、軸足から前足に向けてぶつけたパワーが強ければ強いほど前足の下の穴は深く掘れる傾向にあります。意識して深く掘れるように前足を使うのではなく、上手く前足にぶつける事が出来ると自然と穴が深く掘れるようになってきます。
骨盤を閉じたまま着地
前足の踏み込みを強くすると言うと、足に意識が行ってしまい骨盤を開いて着地してしまう選手が少なくありませんが、前足が着地した時点では骨盤はまだ閉じているイメージが大切です。理由としてはステップする際の前足の内旋が解けにくくなり、身体の開きを抑えやすくなるからです。身体が開くと力が逃げてしまうだけでなく、バッターから見てもボールの出所がわかりやすくなりタイミングを取りやすくなってしまいます。
足の角度も非常に重要
前足が着地する時の膝の角度は135°をイメージしましょう。それ以下になると足への負担が大きくなり、前足の膝が前に流れやすくなり上手く骨盤を止める事ができなくなり、投球側の腕がしっかりと前に出てくる事が出来ません。そうすると上半身の力で無理やり捻って投げる事になり、身体の開きが早くなってしまったり利き腕側のバッターの顔付近に向かって抜けるボールが多くなってしまい、それを防ぐためにリリースで調整してしまって結果として反対側に引っかかったような球が増えたりします。
こちらの記事は実際に150km/hを投げた選手の特徴について書かれていますのでぜひ合わせて読んでみてください→150km/h投げるピッチャーの特徴とおすすめの練習法
リリース
リリースでボールを撫でてしまったり押し出してしまわない為にはしっかりと叩くようにリリースする事がポイントです。リリースで叩く為には絶対にクリアしておくべきポイントがあります。
それはトップを作る事です。速い段階でトップを作り、回転軸から腕が離れすぎないように回転することでリリース時にしっかりと叩く事ができるようになります。そこで今回はトップの作り方について詳しく解説していきます。
トップを作る
トップとは投げる為の準備の状態です。トップは作るというより四肢(腕・脚)を連動させる事でトップが出来るように仕向けるという方が正しい表現かもしれません。トップが上手く作れなければボールが高めに浮いてしまったり、シュート回転してしまったりコントロールが安定しない原因になります。球速・球威を上げる為に絶対に必要なボールを叩くようにリリースする動作もしづらくなる為、投球動作の中で最も重要と言っても過言ではないでしょう。
トップの時の肘の高さの基準は両肩をつないだ線よりも少し上にある事。両肩を繋いだ線よりも低くなると回転運動の時に肘の絞りを上手く作る事が出来なくなり、肘の内側を痛める原因につながります。逆に今肘の内側に違和感や痛みを関している選手は、トップの位置を見直す事で改善する事が出来るでしょう。
身体の前側で腕を上げる
トップを作る事が苦手な選手の多くがテイクバックで腕を後ろに引きすぎている事。両腕を真横に開くと180度になりますが、それよりも後ろ側から手を上げてトップの位置に持って来ようとしても引っ掛かってしまい思うように上がりません。胸郭と肩甲骨の動きが良く肩周りがかなり選手であれば、多少後ろ側からでも上げる事は出来ますが、少しでもテイクバックが大きくなると肩への負担が大きくなり、ケガの原因になる為オススメは出来ません。
上げる・出る・叩く
トップを作るタイミングは出来るだけ早い段階がオススメです。体重を移動しながらトップを作ろうとすると、十分にトップを作る事が出来ないまま回転運動に移ってしまう事になり、腕が遅れてしまいやすくなります。そうなると筋力に頼りがちになり、肩や肘への負担が増加しやすくなってしまうからです。先ずは肘を上げる、体重移動で前に出る、前足にぶつかった反動で背中を使って叩くという順番を身体にしっかりと刻み込む事から始めましょう。
くの字を作る
ヒップファーストとも言われます。足を上げてからステップに移る際、右ピッチャーを三塁側から見ると、頭・骨盤・軸足の位置関係がくの字を描くように意識しましょう。この時肩の高さは右肩が少し下、左肩が少し上に傾きますが大袈裟になりすぎると上半身が間に合わなくなるため注意が必要です。また肩だけを落とすのではなく両肩と骨盤の左右を線でつないだ長方形がそのまま傾くイメージを持つようにしましょう。
前足が着地した時は地面と平行である事
くの字を意識する事で起こりやすくなるのが前脚が着地した時点で骨盤の前側が高くなってしまう事です。そうなる事で発射台の角度が上に向いてしまい球が高めに浮きやすくなります。またそれを改善しようとして上半身を折って投げたり、肘を引き下ろしてしまって肘の裏側を痛めたり、上腕二頭筋に張りが出たりします。ですから着地時の骨盤の角度は非常に重要です。一方肩の高さに関しては、投げる側のかたが少し下がっていても問題ありません。ですがこれも限度があり、下がりすぎていると上半身が遅れてしまいます。そうなるとグラブ側の手で無理やり開いて投げる形になりやすいので、前足が着地した時には肩のラインも水平に近い方が良いという事だけは理解しておきましょう。
動作のタイミング
動作のタイミングを掴むためには動作の仕組みや力の方向を理解する事が求められます。
また自分自身の主観で動くのではなく、正しい動きと自分の感覚をつなげていく必要があります。
例えば下の画像のように、前足を着地する時には青の矢印のように上から下に向かって力が加わります。そして地面に着いた反動で赤の矢印が生まれます。
次に先ほど生まれた赤の矢印を前足の股関節でストップします。
軸足から前足に向かって体重が移動してきたものが急にストップされてしまうため、背骨が一気に前に向かって倒れてきます(上の矢印)。球速が速い選手はこのタイミングで更に前足を伸展する事で骨盤をキャッチャー方向に向かって飛ばすような動きが入り(下の矢印)ます。その結果腕の振りの速さが加速され、より球速が伸びるというわけです。
これらの動作は全てタイミングがあってこそ意味があるものです。例えば最後に出てきた前足の伸展に関して言えば、少しでもタイミングが早いと上半身が跳ね返されて起き上がる形になり、球速が落ちるだけでなくボールが高めに浮きやすくなるなどコントロールにも影響を与えてしまいます。
腕が振られる感覚が持てるかが鍵
動作のタイミングが合い始めると腕を「振る」という感覚が減ってきて「振られる」という感覚になってきます。この感覚は実際に経験しなければ理解し難いものかもしれませんが、球速が速い投手の多くは腕を筋力で振るのではなく反動で振られるという感覚を持っています。その為には一生懸命腕を振るのではなく、どのように体を使えば腕が振られる感覚が持てるのか?という視点で練習する事が大切です。
特に野球のボールは小さく、軽いため反動を使わなくても自分自身の筋力で投げられてしまうのが問題です。ですが投げる物体が重くなった場合や長くなり取り扱いが難しくなった場合には上手くタイミングを合わせなければ速く(遠くに)投げることは出来ません。そういった意味ではプライオボールやジャベリックスローもおすすめの練習です。
まとめ
今回は7つの項目について球速が速い選手と遅い選手の比較を行いました。
球速を上げる為に何をすればいいか分からないといった選手も少なくありませんが、これらの項目全てがクリアできていて球速が伸びない選手はあまり多くないでしょう。是非一つ一つ課題を克服して140km/h以上の球速を手に入れましょう。