今回は選手と接する時の言葉が与える影響ついて。もちろん指導者は日頃から気をつけて発言していますが、それでもたった一言で築いてきた関係に亀裂が入る事もあり得ます。そんな関係は本当の信頼関係ではないという意見もあるかもしれませんが、些細な違和感がきっかけとなる事は間違い無くあると思います。コーチが選手にかけて良い言葉、避けるべき言葉についてご紹介します。
選手を潰す言葉とは
何気ない一言で選手は狂う
日頃から練習を見ているコーチなどの一言は選手にとって非常に大きな影響力を持ちます。例えばいつも通り投げているピッチャーに「あれ?(コーチの勘違いで)ちょっと肘の位置低くない?」と何となく声を掛けたとしましょう。その選手はいつも通り投げているため当然自覚はありません。でもコーチが言うならそうかもしれない・・・と不安を感じ、肘を上げようとしてしまいます。そうすると本来のバランスと変わり、フォームが乱れる原因となるでしょう。皮肉な事に、選手とコーチとの信頼関係が強ければ強いほど、選手に対して影響を与えてしまいます。
レベル(世代)によっても違う
選手がどの世代かによってもコーチの言葉が与える影響は変わります。例えば選手が小学生など若すぎる場合。大人であるコーチから言われた言葉は選手にとって非常に大きな影響を与えます。これは選手の年齢が上がってくれば影響は小さくなります。ですが年齢という基準とは別に、受け取る側の知識レベルによっても与える影響が変わってくるのです。
例えば先ほど例に挙げた「ちょっと肘下げた?」という話。選手によっては肘が下がっているのなら肘を上げないといけないと思ってしまいますが、自分のフォームをしっかりと理解している選手であれば、動画を撮影して比較するなどすればコーチの思い違いであるという事を自分で突き止める事が出来ます。
また本当に肘が下がっていたとしても、肘を上げようとするのではなくなぜ肘が下がったのか?という根本的な原因を探る事が出来るので大きくフォームを崩す事には繋がりません。勿論ここまでの知識と技術を持ち合わせた選手は中々いません。ですが大学生位の年代になると、そこまで自分自身の事を研究している選手も実際にいます。
選手によって言葉を使い分ける
コーチから選手に伝えるアドバイスの言葉は一貫性が必要です。ですが当然の事ながら選手には色々なタイプがいます。
全く同じ事を伝えていたとしても伝わる選手と伝わらない選手がいるのも当たり前です。ですがコーチである以上、選手を成長させる事が仕事です。例えば「低めを振るな」というアドバイスがしっくり来る選手もいれば「高めを狙え」と伝えた方が良い選手もいます。“伝えたけど出来ない”ではコーチとして仕事を果たしたとは言えません。ですからコーチは選手が実際に出来るようになる為に、様々な角度からアプローチする事が必要になります。
また選手によっては付き合うときのキャラクターを変える事も求められるかもしれません。半ば強制的にでもしっかりと先導して、やっとメニューをクリアする選手がいるかと思えば、放っておいても勝手に練習し、次から次へと自発的に求めてくる選手もいます。前者の場合はコーチが前から引っ張ってみたり、後ろから背中を押してみたり・・・後者の場合はオーバートレーニングにならないように、後ろから少しだけブレーキをかける事が必要になる時もあります。
因みにですが、オーバートレーニングになる程練習に取り組む選手は真面目でレベルが高い選手が多いと感じます。そんな選手は休む事の重要性をしっかりと理解すれば真面目に休みを取ってくれます。
選手は言葉で復活もする!
時にはウソも必要
こんな事を言うと誤解を招く恐れもありますが、時にはウソをつく事もあります。
ある公式戦の試合前ブルペンでの事。通常ピッチャーの後ろから投げている様子を確認しているのですが、先発ピッチャーの調子が今ひとつ。そこで「キャッチャー側から球筋を見る」とピッチャーに伝え、キャッチャー(機転が効き気配りがしっかり出来るタイプ)の後ろに回り、小声で「どんな球でも良いからしっかり音を鳴らして捕って、とにかく褒めてくれ」と伝えました。実際後ろから見ていると、焦りからかフォームのバランスも乱れがちでストレートはシュートして変化球も抜け気味。それでもキャッチャーはナイスボールと声をかけてくれ、良い音を鳴らしてくれます。そんな中、唯一カーブの時だけフォームのバランスが良く、しっかりとコントロール出来ていました。
そこでピッチャー側に戻り、「今日はカーブの時のバランスで投げられれば絶対大丈夫!」と伝え、「試しにカーブの後に同じバランスで真っ直ぐ投げてみて」とカーブ、ストレートの順に投げさせました。そしてキャッチャーにわざとらしく「どう!?」と聞くと「最高です!」という答え。この演技が本当に効果があったのかは分かりません。ですが実際にその試合、1失点で見事完投勝利。ウソも方便とはよく言ったものだとしみじみ感じた経験でした。
まとめ
言霊という言葉があるように、言葉にはかなり大きな力が宿ります。「そんなつもりじゃ・・・」と思うような何気ない一言で、状況は大きく変化します。そしてその言葉は関係が深くなればなる程、より強力な武器となることを自覚しておかなければいけません。この記事を書きながら、自分自身も今まで以上に言葉の重みを理解し、選手の成長に少しでも貢献できるよう取り組まなければならないと感じました。伸び悩んでいる選手がいる場合やコーチと選手との関係が上手く行っていないと感じる場合は、一度しっかりと言葉を交わしてお互いの意見を理解し合う事で、信頼関係が強くなり良い方向へと向かうかもしれません。