最近日本の野球界では球数制限という言葉をよく耳にするようになりました。球数制限をすることで1人の投手が多投することによるケガのリスクが下げる事が出来たり、複数の投手を用意しておく必要があるなど戦術が変化したりとチームにとって球数制限は大きな影響力のあるものと言えます。また球数制限がある事によって甲子園で常連高ではない(表現が適切ではないかもしれませんが)チームの大エースが強豪校を押さえ込み勝ち上がるといったシンデレラストーリー(そもそも必要無いという話は置いておきます)も見る事が出来なくなってしまうのも事実です。という訳で今回は「球数制限」について書いていきたいと思います。
目次
球数制限が導入された背景
甲子園での投球数問題
2013年に当時愛媛県の代表校・済美高校のエースだった安樂智大投手(現楽天)が甲子園の2回戦で広島代表の広陵高校との対戦で232球の完投勝利を演じた事が発端といわれています。この試合に対して米メディアは「クレイジーだ」報じた事もきっかけになったかもしれません。その後も2018年夏の甲子園で、済美高校の山口直哉投手が1試合184球を投じての完投。そして、記憶に新しい金足農業高校の吉田輝星投手(現日本ハム)が県大会から甲子園の決勝戦の5回までを一人で投げ抜き、1カ月余りで1500球以上を投球した事が話題となり、投手の負担が大きすぎると有識者の間で会議が行われました。
新潟県高野連が発端に
それでも日本高野連は球数制限の導入に対して慎重な姿勢をとっていましたが、新潟県高野連が翌年の春季大会において「1試合100球の球数制限を導入する」と発表し話題になりました。
新潟県高野連の動きを受けて、日本高野連は球数制限を本格導入する方向へ動くと発表したのが球数制限が導入される背景です。確かに吉田輝星選手の県大会から甲子園の決勝戦までの投球数というものは身体にかなり大きな負担がかかるものと考えられます。
球数制限で変化するもの・しないもの
球数制限による弊害は?
球数制限が導入された背景についてご紹介しましたが、果たして球数制限を導入して本当に野球選手のケガを減少させる事が出来るのでしょうか。確かに球数制限を導入する事で先程も述べたように、これまでのように選手達が酷使される“死闘”と呼ばれる展開を見る事は無くなるでしょう。ですがチームの戦術も変わってくるはずです。強豪校ならまだしも、人数ギリギリで戦うチームはどうなるのでしょうか。ピッチャーを代える事の出来な状況下でも変えざるを得ない場面も出てくるかもしれません。チームによって有利・不利がこれほどある事を見越した上で、本当に今後も球数制限をルールとして採用し続けるべきなのか、まだまだ様々な意見が出る事でしょう。
ケガが減るとは限らない
ここで考えるべき事は、球数制限の有無に関係なくケガをする選手はすると言う事です。少し強烈な言葉かも知れませんがこれが現実ではないでしょうか。では大切になってくるのは何でしょうか?それは正しい形で身体を動かす事だと私は考えています。正しい形で動作を行えば数をこなしてもケガをリスクは低いのです。ですが間違った形で動作を行えば、数を制限したとしてもケガをするリスクは高い。このことに着目するべきだと考えます。
部活動とケガの現状
ここでは少しデータを参考に、部活動の現場においてどのような事が起きているのか触れていきたいと思います。
野球だけでなく、中高生になると部活動を通じて本格的にスポーツを開始する人が多くなります。スポーツによって生じる損傷や障害は、成長障害や二次的障害を引き起こす可能性があります。中学校3年生を対象にしたアンケートでは、学生の約60%がケガをしているというデータもあります。
またスポーツ傷害の対応について怪我人のリハビリ等、専門的な知識が必要な項目において「困っている」という教員が多いことも事実のようです。このことから、教員のスポーツ傷害等に関する知識、技術の習得のみではなく、スポーツトレーナーのようなスポーツ医・科学の専門家を運動部活動下に配置することも必要だという論文もあります。
参考: https://ci.nii.ac.jp/naid/130005245430
どのような環境を整えるべきか
指導者のレベルアップも必要
フォームという形にこだわる事でケガのリスクを軽減させる事が出来るというのは分かったと思います。このような事実がある中で、アマチュア野球を中心とした現在の環境はどうでしょうか?選手達が安心して練習を行う事が出来る環境が整っているとは言えません。このような状況を変化させる事がケガのリスクを下げる事に繋がります。
少なくとも球数制限のようなルールを規定する事が根本的な改善になるのではなく、上記でも述べたようにこれからは教える側の知識や技術を整え、環境を整備する事が大切だという事が分かると思います。特に小学生までの期間はゴールデンエイジと言い、身体の発達とともに技術の習得が1番身につきやすい年代であると言えます。このような時期に正しい動作を身に付ける事によって将来的なケガのリスクを抑える事に繋がるのではないでしょうか。
コーチと選手との関係性
日本では未だ多くの場面で監督やコーチが上、選手が下という関係が続いています。ですから選手は指導者の意見をしっかりと反映しなければ試合に出場する事が難しくなります。ですが本来であれば主役としてプレーするのは選手です。ですから選手自身が情報収集を行い、工夫し、監督やコーチは困った時にアドバイスを行うという関係を作る事が望ましいと考えています。今後監督やコーチを目指す方は頭の片隅にこの話を置いておいていただけると非常に嬉しく思います。
まとめ
最近はアマチュア野球だけではなくプロ野球やメジャーリーグでも球数制限という考えは普及しています。球数を多く投げる事が全て悪いという事ではなく、技術の習得において反復練習は必須と言えるでしょう。練習の中で自らの技術を確かなものにするためにも、正しい形に目を向け、理解して習得を目指す事は非常に重要な事です。これからの野球人生でケガをする事なく目標に向かってレベルアップ出来るように日々取り組んでいただきたいと思います。